鉄に魅せられた神々 2.「常陸国風土記」に見える鹿島の鉄の検討① 砂鉄

「第一集 香取海を巡る神々」の最初に「鹿島神宮」を取り上げたが、この時点から「古代における鉄」の探索に引き込まれていくことになった。「鹿島神宮③」の冒頭では「常陸国風土記」のつぎの文章を引用した。

慶雲元年(七○四)に、国の司(つかさ)采女(うねめ)の朝臣が、鍛佐備(かぬちさび)の大麿らを連れて、若松の浜の砂鉄を採って、剣を造った。ここから南、軽野の里の若松の浜に至るまで、三十余里ほど、ここは皆松山である。伏令(まつほど)・伏神(ねあるまつほど)を、年ごとに掘る。その若松の浦は、つまり常陸・下総二つの国の境である。安是(あぜ)の湖にある砂鉄は、剣を造ればとてもするどい剣ができる。しかしながら香島の神山であるから、容易に入りこんで松を伐ったり鉄を掘ったりすることはできない。

常陸国風土記 小学館「日本古典文学全集 5」口語訳

「若松の浜」で採れる「砂鉄」を原料に「剣」を造ったとある。時は 704 年だから 8 世紀の初めである。このころには、すでに「砂鉄」を還元して鉄を作り(製錬)、それを鍛造して「鋼」とする「製鉄」が行われていたのである。この文章は多くのことを私たちに教えてくれる。

  1. 製鉄の原料は「若松の浜」(神栖町・波崎町の海岸の丘陵部)の「砂鉄」である。
  2. 「砂鉄」から鉄を作り、そこから鍛造して剣を造っているが、「安是(あぜ)の湖にある砂鉄は、剣を造ればとてもするどい剣ができる」と砂鉄の品質が良いことを述べている
  3. 「ここから南、軽野の里の若松の浜に至るまで、三十余里ほど、ここは皆松山である」とあり、木炭の原料となる「松」が豊富であることが示されている
  4. 「国の司(つかさ)采女(うねめ)の朝臣が」とあることから、この「製鉄」は「国司」が中心となって行う国家事業であったことがわかる
  5. 「鍛佐備(かぬちさび)の大麿」が製鉄に係わっている。「鹿島神宮③」で述べたように「鍛」は「金打」で、「佐備」は鉄のことである。大麿は鉄の鍛造を行う技師長といったところか
  6. これもすでに述べたが、「香島の神山であるから、容易に入りこんで松を伐ったり鉄を掘ったりすることはできない」とあるから、「鹿島神宮」がこの製鉄事業に深く関係していたと考えられる

 では、まず今回は原料の「砂鉄」から検討していこう。

磁石に引き寄せられる砂鉄(Photo taken by Aney, 2006-03-12, GFDL

 次項で詳しく述べるが、鉄は酸化鉄を還元することによって得られる。この酸化鉄としては、磁鉄鉱・赤鉄鉱・褐鉄鉱(リモナイト)などの「鉄鉱石」が用いられる。しかし、日本は鉄鉱石を産出する鉱山は少ないので、「山砂鉄」「川砂鉄」「浜砂鉄」など列島各地に広範囲に分布している「砂鉄」を原料に製鉄を行っていたものと考えられている。

「砂鉄」とは「岩石中の磁鉄鉱やチタン鉄鉱などが岩石の崩壊によって流され、河床・湖底・海底などに堆積したもの(デジタル大辞泉)」である。地下にあるマグマが冷えてできた岩石が「火成岩」であり、マグマが地表付近で急速に冷えて固まったものが玄武岩・安山岩・流紋岩などの「火山岩」、地下深くでゆっくりと固まったものが斑れい岩・閃緑岩・花崗岩などの「深成岩」である。これらの「火成岩」の主成分はシリカとアルミナであるが、鉄を含有する鉱物も1~2 % 含まれている。この火成岩が風化によって砂状になり、そのうちの鉄を含有する砂が重力の作用によって分離されて、集積したものが砂鉄である。

 日本における採取段階での砂鉄の品位(鉄分)は平均 19.3 % と報告されており、これを磁力選鉱すると 55 ~ 62 % まで品位を高められる[市川「鐵と鋼」44(10)1204(1958)]。なお、選鉱方法が「重力選鉱」になると品位は「磁力選鉱」の 9 割程度になる。「磁力選鉱」ならチタンをある程度除去できるが、「重力選鉱」では分離できないからである [久保「鉄と鋼」109 (1) 25-32 (2023)]。 現在、輸入されている鉄鉱石中の鉄の含有量は約 63 ~ 64 %[世界大百科事典]だから、鉄分としては同程度になるが、問題は砂鉄にはチタンが含まれていることである。チタンの含有量が少ない砂鉄ほど、古代の製鉄法ではよい砂鉄とされる。「たたら製鉄」で用いられる「真砂砂鉄」は鉄分(T-Fe)59 %・TiO2 1.27 %、「赤目砂鉄」は鉄分(T-Fe)52.07 %・TiO2 5.32 %と報告されている(和鋼博物館)。関東地方の砂鉄はチタン分が多いとされる。福島浜通りの砂鉄ではチタン分がなんと 30 % もある(福島文化振興財団「鉄滓の山から読みとく歴史」)。では、鹿島の砂鉄はどのくらいだろうか?

 鹿島と波崎で採れる砂鉄の品質について、それぞれ Fe 10~13 %・TiO2 2~4 %、Fe 10~16 %・TiO2 3~5 %という報告がある [木村・岸本・丸山「鉱山地質」8 (30) 243-255 (1958)]。これから、TiO2/T-Fe を計算してみると、鹿島産 0.15~0.4、波崎産 0.19~0.5 になる。この値を福島文化振興財団の「鉄滓の山から読みとく歴史 追加資料」の図にプロットしてみたのが、図 2-1である。バナジウムの量は不明なので、TiO2/T-Fe の範囲だけで示しているが、明らかに「中チタン砂鉄」に分類される。千葉の砂鉄に近いだろう。位置から考えて納得できる。それにしても中国山地の「真砂砂鉄」、岩手の砂鉄は驚くほどチタンが少ない。

図2-1 砂鉄のTiO2/T-Feの比較(福島文化振興財団)

 日本列島全体でみるとどうなっているのかを示したのが石原舜三氏が発表した「磁鉄鉱系列花崗岩類とチタン鉄鉱系列花崗岩類の分布」の図 2-1 である。これでみると、「真砂砂鉄」が採れる中国山地北部は「磁鉄鉱系列」の花崗岩が多く分布しており、一方福島浜通りは「チタン鉄鉱系列」であることが分かる。風化された砂鉄が同じ性質を示すのは当然であろう。さらに北上すると、岩手県の北上山地に「磁鉄鉱系列」が現れ、岩手県産の砂鉄のチタン分がとても少ないという図 2-1 の結果が納得できるのである。岩手県釜石は円礫状磁鉄鉱である「餅鉄」で有名な地域でもある。その他では北九州、丹後、富山あたりに「磁鉄鉱系列」が多い。これらも製鉄遺跡の多い地域である。

図2-2 日本列島における磁鉄鉱系列花崗岩類とチタン鉄鉱系列花崗岩類の分布
GSJ 地質ニュース Vol. 9 No. 10(2020 年 10 月)の第1図
(石原ほか(1992a,b)を基に作成)

 では、チタン分が少ないとなぜいいのだろうか? これについては次項で見ていくことにしよう。

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