
「人工地形」は『日本大百科全書』では「人間の諸活動が作用して形成された地形」と定義されている。さらに人間が直接的に改変している「人造地形」と人間の働きが自然の地形形成営力に影響を与えた結果、形成された「人為誘導地形」に分けられるようだ。「古代地図」を復元するためには、これらの「人工地形」を剥ぎ取って、自然地形に戻す必要がある。では、どういう場所が該当するのか? 『日本大百科全書』の「人工地形」の記事を整理すると次のようになる。
人工地形の例
- 直接的な人工地形の例:主に人間生活の舞台となりやすい丘陵、台地、低地などで形成される
- 農業開発:丘陵や台地の平坦化、干拓
- 工業用地の造成:海面の埋立、一部丘陵や台地の平坦化
- 宅地開発:丘陵や台地の平坦化、低地の盛土、海面の埋立
- レジャー開発:ゴルフ場、スキー場の造成
- 鉱業:砂鉄採取、露天掘り、ボタ山の造成
- 交通路:道路や鉄道の建設、ダム建設
- 歴史的な例:古墳の築造、須恵器生産による丘陵地の改変、条里型地割の施行、用水路の築造など
- 間接的な人工地形の例:人間の活動が自然のバランスを変化させることで間接的に生み出される
- 植生の減少による侵食の加速化:過放牧や耕地化による土壌侵食、アロヨ(人工の大規模な溝状地形)の形成、固定砂丘の再移動
- 河川営力の変化:山地荒廃による天井川の形成、ダム建設による河床の上昇・低下、河川改修による流速や侵食力の増大
- 海岸線の変化:ダム建設による海岸侵食、放水路築造による海岸線の前進・後退
かなり種類が多いので、これらすべてについて対応するのは無理がある。今回は「古代の海岸線」の復元に関係する「埋立・干拓地の剥ぎ取り」に絞って検討してみよう。
埋立・干拓地の剥ぎ取りに利用可能なソース
まず、どこが「埋立・干拓地」なのかを特定する必要がある。そのためのソースとして、Gemini Notebookが挙げてきたのは次の3つだ。
- 国土地理院の「土地条件図」:防災対策や土地利用・土地保全・地域開発等の計画策定に必要な、 土地の自然条件等に関する基礎資料を提供する目的で、 昭和30年代から実施している土地条件調査の成果を基に、 主に地形分類(山地、台地・段丘、低地、水部、人工地形など)について示したもの。地理院タイルでは「数値地図25000(土地条件)」「土地条件図(初期整備版)」の2つがある。
- 国土地理院の「治水地形分類図」:治水地形分類図は、治水対策を進めることを目的に、国・都道府県が管理する河川の流域のうち主に平野部を対象として、扇状地、自然堤防、旧河道、後背湿地、人工地形などの詳細な地形分類及び堤防などの河川管理施設等を表示している主題図。
- 国土交通省の国土数値情報「埋立・干拓区域データ」:全国の埋立・干拓区域について、境界(線)、埋立・干拓完了/計画状況、目的・用途(農地造成、工業用地、運輸流通施設用地、都市用地、公園等)、事業主体等を整備したデータ
これらのソースから「埋立・干拓地」を特定して、その範囲をポリゴン化し、そのポリゴンの標高を海と同じ0mにする。「埋立・干拓区域データ」のラインデータをダウンロードして、一括してポリゴン化することもできるが、全国を扱っているためこれを入れるととても重くなる。範囲を絞ってラスタ形式の地図から手動でポリゴン化した方がよいとAIから勧められた。そうすると「土地条件図」と「治水地形分類図」の二択になるが、後者は、国・都道府県が管理する河川の流域に限られている。従って、基本的に「土地条件図」を用い、主要河川の周辺では「治水地形分類図」も使って作業するのがよいだろう。
土地条件図・治水地形分類図の組込み
「土地条件図」「治水地形分類図」のタイルは国土地理院の「地理院タイル一覧」に示されている。QGISへの導入手順は下記のとおり。
- 画面左の「ブラウザパネル」にある [XYZ Tiles] を右クリック > [新規接続…] を選択。
- 名前:土地条件図、
治水地形分類図など名前を入れる - URL:
- 数値地図25000(土地条件):https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/lcm25k_2012/{z}/{x}/{y}.png
- 土地条件図(初期整備版):https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/lcm25k/{z}/{x}/{y}.png
- 治水地形分類図:https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/lcmfc2/{z}/{x}/{y}.png
- [OK]を押すとブラウザパネルに追加されるので、ダブルクリックしてレイヤパネルに読み込む
「数値地図25000(土地条件)」を読み込ませ、表示させた結果は図1だ。例として岡山県南部を表示している。かつて「吉備の海」と呼ばれたあたりである。ピンクに見える赤の水平破線の部分が埋立・干拓地であり、赤の斜め破線は盛土地である。大規模な干拓が行われていたことに驚く。図1で下の方に見えるのは「児島半島」だが、元々は島だったことが読み取れる。


埋立・干拓地のポリゴン化
いよいよ「埋立・干拓地のポリゴン化」に移ろう。この手順は『業務で使うQGIS ver3 完全使いこなしガイド』(以下、「マニュアル本」と呼ぶ)では11章の「ベクタレイヤの編集」の11.6~11.17に詳述されている。おおまかには次の通り。
- 新規GeoPackageレイヤを作成する(GeoPackageはQGISの標準レイヤファイル)
- 上部メニュー [レイヤ] > [レイヤの作成] > [新規GeoPackageレイヤ…]
- データベース:右側の…を押して、データベースにファイルを保存するフォルダとファイル名を記入する
- ジオメトリタイプ:マルチポリゴン(一つのデータで複数のポリゴンを扱えるので便利)
- CRS(座標参照系):EPSG:6690 – JGD2011 / UTM zone 53Nとした(必ずプロジェクトと同じEPSGを指定すること)
- 囲み作業(デジタイズ)
- 作成したレイヤを選んで 黄色の鉛筆マーク(編集モード切替) をクリック
- 「ポリゴン地物を追加」 アイコンを押し、土地条件図のピンク色の干拓地領域の外枠をマウスで左クリックしながら順々になぞって囲む
- 囲み終えたら 右クリック して
idに1を入力(自動でもよい)して確定。最後に鉛筆マークを押して[保存]する
鉛筆マーク、ポリゴン地物を追加などのツールの場所がわかりにくかったので図3に示しておく。

Gemini Notebookが教えてくれた囲み作業のコツは次の通りだ。
- 間違えて打った点は Backspace キーで取り消せる
- 作業中の画面移動(ズーム・パン)は自由自在
- 拡大・縮小:マウスホイールを回す
- 画面の移動(パン):マウスホイールを押し込んだままドラッグする
- 完璧を目指さなくてOK(あとからいくらでも修正可能)
- 頂点ツール(Vertex Tool)(図3)を使えば、打った点をドラッグして動かしたり、追加・削除したりが後から自由にできる
- こまめに「レイヤ編集の保存」を押す
- ツールバーの [レイヤ編集内容の保存]を時々押しておくと安心
作業自体に問題となるところはない。いちばん気になったのは「どこまでを埋立・干拓地と判断するか?」という問題である。図2の凡例を見ると「干拓地」は「赤い水平破線」で示されている。ここで判断が難しいのは「赤い斜め実線」の「高い盛土地」と「赤い斜め破線」の「盛土地・埋立地」の扱いだ。前者は「約2m以上盛土した人工造成地。主に海や谷を埋めた部分」、後者は「山地、台地、低地及び水部に土を盛って造成された平坦地または傾斜地」と書かれており、海を埋めたものと陸に盛土したものが混在している。使われている状況を見ると、「高い盛土地」は海面の埋め立てのようだが、「盛土地・埋立地」は海陸両方ある。どう考えればよいのかGemini Notebookに訊いてみた。すると、即座に「海か陸かの見分け方」を提示してきた。
「陸の盛土」と「海の埋立」を見分ける実践基準
- 標高値(DEM)による判別
- 標高 0m 〜 2m 前後の極めて低いエリア:児島湾沿岸部など、現在の標高が非常に低く、周囲の干拓地(ピンク色)と連続している盛土地・埋立地は、「かつての浅瀬・干潟・沿岸部を近代以降に埋め立てた都市部・港湾・堤防」である可能性が極めて高いため、剥ぎ取り(ポリゴン囲み)の対象とする
- 標高 3m 〜 5m 以上ある内陸や山裾・微高地のエリア:自然堤防や台地の縁辺部、山裾にある盛土地は、元々が水没しない陸地であった可能性が高いため、剥ぎ取り対象から外す(囲まない)のが適切
- 地形区分との位置関係
- 隣接する地形が「氾濫平野」や「微高地(自然堤防)」の上にある盛土は「陸の盛土」、水域や干拓地に直接面している盛土は「海の埋立」と判断できる
この選択条件に基づき、「数値地図25000(土地条件)」を主として用い、時には「治水地形分類図」や「土地条件図(初期整備版)」で確認しながら作業を行った結果が図4である。この図は数値地図25000(土地条件)、標高DEM、起伏図、淡色地図を重ね合わせたものに、ポリゴン化した「干拓・埋立地」を赤で表示させている。左端が福山、右端が加古川下流域である。

「リングの追加」で島をくり抜く
ここまでの作業で「埋立・干拓地」を囲んでポリゴン化した。この範囲の中に島が含まれている場合、どう処理したらいいのか? ポリゴン化の際に島を除けて作業するのはとても大変である。従って、島を内部に含めたままポリゴン化し、後で島の部分を切り抜くのが効率的だ。これにはQGISの「リング」というツールを使う。その手順を下記に示す。
- 編集モード(黄色の鉛筆マーク)をオン
- QGIS上部メニューの [編集] > [ジオメトリを編集] > [リングの追加]をクリック。
- マウスカーソルが変わったら、くり抜きたい「島」の外枠を左クリックで順番になぞって囲む
- ぐるりと一周したら、画面上で 右クリック 。囲んだ部分が切り抜かれる
これで「埋立・干拓地」のポリゴン化が終了。次にこのエリアの標高0m化(剥ぎ取り)作業を行う。
干拓・埋立地の標高0m化(剥ぎ取り)
Gemini Notebookは作ったポリゴンを「ラスタ」データに変換し、ラスタ計算機を用いて標高0mとなるように設定する方法を提案している。ベクタとラスタについては下記を参照いただきたい。

ここで「ベクタのまま処理できないのだろうか?」という疑問が浮かぶ。ポリゴン(ベクタ)に「標高0m」の情報を持たせることはできないが、「ポリゴン内の色を海の色と同じにする」ことはできるのではないか? なぜ、この方法だといけないのかAIに訊いてみた。
「非常に自然な疑問です!見た目を整えるだけなら、ポリゴンの塗りを『青色』にするだけでも海っぽく見せることは可能です 。しかし、今回行っている『GISによる科学的な古代地図の復元』において、見た目の変更だけではなく、DEM(標高データ)の数値そのものを「0m」に書き換える(剥ぎ取り処理)必要がある最大の理由は、今後の分析・シミュレーション工程に決定的な影響を与えるからです 」と回答があり、さらに、次の3つの影響を挙げてきた。
- 時期別の「海水準(標高)計算」(Phase 3)で正しく判定できなくなる:この後のPhase 3では、縄文海進や、各時代の海水準・地盤変動の数値をラスタ計算機に入力して、「どの標高までが海に入り込むか」を自動計算させる。
- 色だけ青くした場合:見た目は海でも、データの中身は「標高数mの陸地」のままであり、計算を実行した際、QGISはデータ内の数値を見るため、ここを「陸地」と誤判定してしまう
- DEMを0mに書き換えた場合:データ自体が「標高0m(海面)」になるため、どんな時代設定で計算をかけても、干拓地が正しく「水域」として計算結果に反映される
- 標高スタイル(カラーランプ)の自動塗り分けが使えなくなる:DEMは、標高の数値(0m、5m、10m…)に応じて、水色・緑・茶色などのグラデーションカラーを自動で割り当てて表示する。もしポリゴンで覆っただけだと、下に隠れているDEMの標高スタイルと干渉したり、DEMの標高に応じた正確な色分けや水深表現(陰影起伏との乗算など)が干拓地エリアだけ適用されなくなる。
- 3D表示(立体化)したときに干拓地が浮き上がってしまう:QGISのプラグイン等を使って将来的に「古代地形の3D表示(立体モデル)」を作成する際、3D機能はDEMのピクセルの標高値を読み取って高低差を表現する。DEMの値を0mにしておかないと、3D画面にした時に「海の色をした平坦な高台(陸地)」が立体として浮き上がってしまい、古代のリアルな海面や地形が表現できなくなる
つまり標高DEMと同じ形式で取り扱えるようにしておかないと、今後の作業に支障がでるようだ。手順は次の通り。
ステップ 1:ポリゴンデータの「ラスタ化(Vector to Raster)」
- QGIS上部メニューの [ラスタ] > [変換] > [ラスタライズ(ベクタをラスタ化)…]
- 設定画面で以下のように指定:
- 入力レイヤ:作成した干拓ポリゴンレイヤ
- 固定値(バンド毎に指定可能):1(※ポリゴンの場所を「1」にする)
- 出力ラスタサイズの単位:地理単位(メートル)
- 水平/垂直解像度:DEMと同じ 10(※10mメッシュの場合。DEMのピクセルサイズに合わせる)
- 出力領域:[レイヤから計算] > 標高DEMのレイヤ を選ぶ
- 出力のCRS:EPSG:6690
- 一番下の [実行] をクリック。

これで干拓地部分だけが「1」、それ以外が「0(またはNoData)」になった白黒のラスタ画像(ラスタ化)がレイヤパネルに追加される。

ステップ 2:「ラスタ計算機」で標高を0mに置き換える
- 上部メニューの [ラスタ] > [ラスタ計算機…] を開く
- ラスタ計算式 の欄に、図7のように式を入力(「!=」は「等しくない」の意味)。この式の意味は少しわかりにくいが、条件式(
=、!=、<、>=など)は条件を満たさない(偽)の場合は「 0」 、満たす(真)の場合は「 1 」を返すという性質を利用している。したがって、- 干拓地以外の場所(
!= 1) ➔1と判定され、元のDEMの標高がそのまま残る - 干拓地の場所(
= 1) ➔0が掛け算されて標高0mになる
- 干拓地以外の場所(
- 出力層(出力ファイル):
...を押して、dem_peeled.tifなどの名前で保存先を指定(OneDriveだとうまくいかないので注意)。 - [OK]をクリック

新しいレイヤdem_peeledがレイヤパネルに現れる。単バンドグレーの設定になっているので、下記の様に標高DEMからスタイルをコピペする。
- レイヤパネルで 「標高DEM」を右クリックし、[スタイル] > [スタイルをコピー] > [全スタイルカテゴリ]をクリック。
- 次に dem_peeled レイヤを右クリックし、[スタイル] > [スタイルを貼り付け] > [全スタイルカテゴリ]をクリック。
- 透明度設定で100%とし、標高DEM、Hillshade、淡色地図のみを表示させる。図8のように「干拓・埋立地」を剥ぎ取り、自然の海岸線を復活できた。

これで「人工地形」のうち「埋立・干拓地」が剥ぎ取られ、自然の海岸線が浮かび上がった。図8の吉備地方の地図には、「児島半島」ではなく、まさに「吉備児島」や「吉備穴海」が描かれている。しかし、この「穴海」の姿はまだ完全ではない。次回のStep 3では既往の知見を踏まえて、「縄文」「弥生」「古墳」の各時代の海岸線の状況を再現してみたい。
