
前回は岡山県を例に、自治体が公表しているShapeファイル形式の「埋蔵文化財GISデータ」を、国土地理院の「地理院地図」が読み込めるCSV形式に変換する方法について説明した。
この方法で、緯度・経度データに紐付けられた古墳や製鉄遺跡などを含む、膨大な量の埋蔵文化財の一覧表という「お宝」をゲットできた。古墳だけに絞り込んで地理院地図に読み込ませてみると、かなり処理時間はかかったが、図1の通り見事にマッピングされた。古墳がしっかり岡山県の圏域内に入っており、位置データの乱れがないことが確認できた。

ただし、古墳の数はなんと10,644基。岡山県だけでこの数だ。正直なところ、古墳が多すぎる!
さて、今回は苦心の末にゲットしたCSVファイルを開けてみたら、「緯度・経度データ」ではなく「住所」しか記載されておらず、ガッカリしてしまった場合の対応について、千葉県を例に考えてみよう。
千葉県のケース:開けてみると位置情報が住所だった!
第一回の記事「古墳 GIS データの集め方(1)」では、生成AIのGeminiに千葉県のオープンデータサイトを検索してもらった。その際、「千葉県が公開しているデータの中には、独自のCSVファイルやShapeファイルは1件も登録されていません」という報告を受けた。
しかし、実際に「千葉県オープンデータサイト」に入り、検索ウィンドウに「古墳」「遺跡」「埋蔵文化財」「文化財」と順に入力して検索してみると、0件が続いたのち、「文化財」で9件のリストが表示された。このうち、「[千葉県]文化財一覧」からはCSVファイルが入手できることがわかった。

図2がその画面だが、緯度・経度の欄はあるものの、ほとんどが空白で、位置を示すものとしては「住所」が記載されていた。
もうひとつの問題は、このリストが千葉県にある「指定文化財」のリストであることだ。画面の下の方に「弁天山古墳」の文字が見えるように、古墳も含まれてはいるが数が少ない。数えてみると全部で23件だった。これでは少なすぎて、全県的な分析には役に立たない。
別な県はどうかと兵庫県も調べてみたが、全990件のうち古墳時代以前の「古墳・遺跡」は34件だけだった。よって、「指定文化財リスト」は古墳探しの検索対象からは外した方がいいと思う。
千葉県の場合は、全く別の場所に「埋蔵文化財包蔵地」のマップがあるので、これについてはこの記事の最後で少し触れよう。
では、いよいよ本題の「住所から緯度・経度への変換」に入ろう。
ジオコーディング(地番変換)とは?
せっかく手に入れたCSVファイルを開いて、「住所」しか書かれていなくても諦める必要はない。この「住所」という文字情報を、コンピュータや地図ソフトが認識できる「緯度・経度(数値)」に変換する作業を「ジオコーディング(地番変換)」と呼ぶ。
これも1件ずつGoogleマップで調べてコピペしていたら、それこそ日が暮れてしまう。しかし、インターネット上には、無料で住所を緯度・経度に一括変換してくれるありがたいツール(Webサービス)が存在する。
では、どんなツールがあるのか?その特徴・長所・短所をGeminiに整理してもらおう。
💡 住所を一括で緯度経度に変換する「ジオコーディングツール」
一般の方が無料で使えて、今回のデータ処理に役立つ主な手法を3つに整理しました。
1. Web版の一括変換サービス(ブラウザ完結型)
「東京大学 CSVアドレスマッチングサービス」など、サイト上に住所を貼り付けたり、CSVをドラッグ&ドロップするだけで動く無料ツールです。
- 長所: インストール不要で数秒で使えます。日本の住所特有の「表記の揺れ」にも強いです。
- 短所: 無料のため「1回100件まで」といった数量制限があり、何万件もの膨大なデータ処理には向きません。
2. 国土交通省データ + 変換ツールの組み合わせ(ローカル処理型)
国が配っている住所マスターデータをダウンロードし、パソコン内の専用ソフト(「おんどこ」など)で変換する手法です。
- 長所: 国の公式データなので信頼性が高く、何万件あっても無制限・一括で処理できます。
- 短所: 事前に大容量データをダウンロードする前準備が面倒で、住所の「1文字のズレ」でもエラーになりやすいです。
3. Google スプレッドシートの拡張機能(アドオン)
スプレッドシートの拡張機能(Awesome Table など)を使い、ボタン一つで隣の列に緯度経度を吐き出させる手法です。
- 長所: 普段のExcel感覚で管理でき、Googleマップの強力な検索エンジンを使うため変換成功率が極めて高いです。
- 短所: 無料で変換できる件数に厳しい制限(1日数百件など)があり、超えると有料になります。
🧭 今回の「千葉県文化財一覧」で使うならどれ?
今回の千葉県のリストは、古墳が30件ほど、全体でも数百件のコンパクトなデータです。 面倒な準備や制限を気にする必要がありませんので、ブラウザだけで一瞬で終わる**「1. Web版の一括変換サービス」**を選ぶのが最も手軽でおすすめです!
では、Geminiの助言に従って、東京大学空間情報科学研究センターが公開している「CSVアドレスマッチングサービス」を使ってジオコーディングを行うことにしよう。
このサイトについて訊いてみると、さらに詳しい回答が返ってきた。
🏫 東京大学「CSVアドレスマッチングサービス」とは
日本の地理情報研究の第一線である大学機関が、位置参照技術の普及や活用のために無料公開しているユーティリティ(実験サービス)です。怪しい広告やウイルスの心配もなく、誰でも安心して完全に無料で利用することができます。
- 面倒な設定なしで一括変換できる: 住所が書かれたCSVファイルを画面からアップロードするだけで、システムが自動的に住所を読み解き、数秒から数十秒で「緯度」と「経度」の数値を追加した新しいCSVファイルを吐き出してくれます。面倒な会員登録やソフトのインストールは一切不要です。
- 日本の住所の「表記の揺れ」を賢く解釈: 日本の住所は「〇丁目〇番地」や「〇-〇-〇」など、書き方がバラバラになりがちです。このツールはそうした表記の揺れを自動で判別し、最も長く一致する正しい位置(街区レベルなど)を推測して座標を付加してくれます。歴史的な文化財データを扱うのにも非常に相性が良いツールです。
なかなかよさそうである! では、実際に使ってみよう。
東大のサービスを用いたジオコーディング手順
手順は次の通りである。
ステップ 1:CSVファイルの準備
- 手元にある「住所」が書かれた CSV ファイルを開く。
- 住所が書かれている列のタイトル(ヘッダー)が「所在地」や「住所」になっているか確認する。ツールが自動で住所の列を認識しやすくなる。
ここで、準備として得られた「bunkazai-r40323.csv」から古墳を抽出し、名称と住所だけにした。
この住所だが、「富津市小久保3017-1他」のように「他」がついているものがある。これは古墳が大きいため、一つの住所で収まりきれないことを示している。この「他」という文字が入っているとマッチングエラーの原因になるため、手作業で事前に除去しておく。

ステップ 2:ツールに読み込ませて変換
- ブラウザで「CSVアドレスマッチングサービス」のページを開く。
- 「すぐにサービスを利用される方はこちらから」をクリックして入力画面に移る。
- 画面下部にある「変換したいファイル名」の横の「ファイルを選択」ボタンをクリックし、先ほど準備した(「他」を消した)CSVファイルを選択。
- 画面の一番上にある「対象範囲」が「全国街区レベル(経緯度・世界測地系)」になっていることを確認。
- 「住所を含むカラム番号」の空欄に、CSVファイルの中で住所が「左から何番目の列にあるか」を半角数字で入力(例:一番左の列なら
1)。 - 設定ができたら、一番下にある「送信」ボタンをクリック。
- 数秒から数十秒待つと、緯度経度データが追加された新しいCSVファイルが自動的にダウンロードされる!

ファイルを開けてみると(図5)、住所が補正され、「fX」「fY」という欄が増えている。

ここで「fXとfY、どっちがどっちだっけ?」と混乱しそうになるが、数学のグラフを思い出してほしい。「X軸=横(経度)」、「Y軸=縦(緯度)」と覚えるとスムーズだ。つまり、fXが経度、fYが緯度である。
また、ファイルの右側には「iConf」や「iLvl」という項目も追加されている。これは変換の信頼度と精度を表すコードだ。
- iConf(信頼度):
5であれば地名の曖昧さによる変換誤りはほぼない。今回のデータはすべて5なので問題なさそうだ。 - iLvl(精度レベル):
6は丁目・小字、7は街区・地番を表す。今回ダウンロードしたデータ(図5)を見てみると、見事に6や7といった高い精度の数字が並んでいる。東大のシステムが、かなり細かいレベルまで住所を読み解いてくれた証拠だ。
さあ、これで「岡山県のケース」と同じように、緯度・経度が入ったお宝CSVデータが完成した!
これを「地理院地図」にドラッグ&ドロップすれば、千葉県の古墳たちがマップ上にピンとして立ち並ぶ……はずである。なお、「fY」「fX」のヘッダー名のままでは地理院地図が認識してくれなかったので、Excel上で「緯度」「経度」に書き直した。

やったぜ、ベイビー!位置関係は特に問題がないように思える。しかし、いつもこう上手くいくとは限らないようだ。Geminiから次のようなアドバイスが届いた。
⚠️ 住所データが持つ「代表点の罠」に注意
今回の千葉県のケースは、元のCSVに細かい「番地」までしっかり記載されていたため、それぞれの古墳が正しい位置に綺麗に分散して表示されました。これはとてもラッキーなケースです。
もし、他のデータで細かい番地が省略され、「〇〇市▲▲町」までしか書かれていない場合は注意が必要です。これが「代表点(だいひょうてん)問題」と呼ばれる住所データの罠なのです。
- みんな同じ場所に重なってしまう? 番地がわからない場合、システムもそれ以上先が追えないため、その町の「中心点(役場や地域の中心座標)」を代表として、すべてのデータをその一箇所へ変換してしまいます。
- 地図上での見え方 その結果、地図上では同じ町内にある複数の古墳が、すべて不自然に一箇所に完全に積み重なって表示されてしまう現象が起きるのです。一見すると、ピンが1本しか立っていないように見えてしまいます。
なるほど!今後、別の地域でこの「ピンが重なってしまう罠」に遭遇した場合は、地道に現地の報告書を調べたり、「文化財総覧WebGIS」を使って手作業でピンの位置を微調整(手修正)していく泥臭い作業が必要になるというわけだ。データの特性として、頭の片隅に置いておくと役立つ知識だ。
最後に千葉県の「埋蔵文化財包蔵地」マップについて
「ちば情報マップ」の中に「ふさの国文化財ナビゲーション」というページがあり、その中に「埋蔵文化財包蔵地マップ」がある。ここから、左のサイドバーで円墳、方墳、前方後円墳、前方後方墳を選択してみると、画面が赤いマークで溢れかえった。実は、千葉県にはこれほど多くの古墳があるのだ。指定文化財の23件がいかに氷山の一角だったかがよくわかる。
ここで、形状を「前方後円墳」と「前方後方墳」だけに絞り込んでみると、かなりすっきりする。これでもまだ多いが、個人で取り扱える限界としてはちょうど良いボリュームに見える。
しかし、大きな問題がある。この「ちば情報マップ」、画面上のデータをCSVファイルとしてダウンロードさせる機能が用意されていないのだ。
じっとこの画面を見つめていると、ダウンロード機能がない画面からどうにかしてデータを抽出する「ある力技のアイデア」が頭に浮かんできた。これについては、いずれこのブログで検討してみたいとと思う。
(次回へ続く)
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